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取材日:2011年10月7日
掲載日:2012年6月1日
▲頭端式4面4線の構造をもつ東横線渋谷駅は、東急電鉄の歴史ある「本線」のターミナルとしての機能を十分に備えた構造になっている。湘南新宿ライン開業までは「急行」と「各停」のみであったが、同線の開業によって東横線を取り巻く環境は一変。現在では「特急」「通勤特急」を加え、日中も5分〜8分おきに列車が発着している。そして、多くの乗降客を捌く様は、まさしく都心のターミナル駅に相応しい光景だ。
  それまでごく当たり前だった光景が、ある日を境に過去のものへと追いやられていくことがある。そうした運命を前にしていながらなお、これまでと変わらない役割を果たし続けなければならない駅がある。それが、今回取り上げる東急東横線渋谷駅だ。
 渋谷駅といえばJR山手線と湘南新宿ライン、そして埼京線が乗り入れるほか、同じ東急の田園都市線と東京地下鉄半蔵門線に銀座線、副都心線、さらに京王井の頭線と実に九つの路線が集まる、都心西部の一大ターミナルであることは誰もが知るところだろう。一日の利用客はJRだけでも40万人は超えるから、駅には常に多くの人が行き交い、人の姿が絶えることを知らないかのようだ。
▲渋谷駅南口は高架下にある。駅前にはバスロータリーがあり、そこから近隣各地に「都営バス」と「東急バス」が発着している。正面口と同様、ここも多くの人が行き交っていた。
▲ちょうど上の写真の場所をホームから撮影。外との仕切壁は完全密閉する構造ではなく、明かり採りと換気を兼ねた「逆三角形状」のもの。曲線美を最大限に生かしたデザインとなっている。
 そんな渋谷駅も、2012年度中に大きく変化をすることになる。それというのも、これまでずっと国鉄→JR線の上を跨ぐように造られた高架駅である東横線渋谷駅が、いよいよ地下に潜ってしまうというのだ。そして、東京地下鉄副都心線と接続し、東横線から副都心線を経由して西武鉄道池袋線と東武鉄道東上線とも相互に直通運転を始めるという。もちろん、こうした直通運転によって利用者の利便性は少なからず向上し、なおかつ利用するにあたっての選択肢が増えるというもの。例えば筆者ならば、東横線の駅から秩父に出かけるのにも利用が可能であり、選択肢が増えたと感じられよう。こうした反面、一度ダイヤが乱れようものなら、他社線にまでその影響は波及し、収拾がつくまで相当な時間がかかることも考えられるから、あまりにも多くの路線との総合直通運転は、ある意味では考え物だともいえる。
 実際、JR湘南新宿ラインは、北は高崎線と宇都宮線、中間は山手貨物線、西は東海道線と横須賀線からそれぞれ乗り入れてきており、ダイヤ通り運転している分には便利なのだが、例えば東北本線で事故があり宇都宮線のダイヤが乱れると、それは東海道線と横須賀線にも波及することを意味し、すぐさま湘南新宿ラインは運休してしまうという脆弱性を持っているといえる。
 東横線は既に横浜でみなとみらい線に接続して直通運転を行っており、また東京地下鉄日比谷線とも中目黒駅で直通運転を行っている。そこへ、副都心線に東武東上線、西武池袋線と実に4社5線の乗り入れとなると、当然運行形態も複雑になってこよう。そこへ、今度は相鉄線までもが入ってきたら一体どうなるか、想像するだけでも恐ろしい話だ。
 実際、取材したこの日も、取材中に途中駅でのトラブルで列車の到着が最大で20分ほど遅れが出た。どのようにしてダイヤの乱れを戻すのかと観察していると、遅れて到着した列車はすぐに客扱いをはじめ、本来であればその列車に乗務してきた運転士と車掌が乗務員室を交替するのだが、その作業はせず待機していた別の乗務員が列車に乗り込み、すぐさま列車を発車させるというものだった。そして、遅れて到着した列車の乗務員は、次に到着する列車に乗務するために、別のホームへと移動し到着を待つ。この作業をすることで、折り返し時間を短縮させ、30分程度でダイヤの乱れをほぼ回復させていた。さすがに、この作業を観察していて驚嘆の思いだったが、これは渋谷駅が折り返しをする始発駅であり、4面4線の設備をもつターミナル駅だからこそできる話なのだと思う。
▲東横線渋谷駅ホームが高架上にあるが、その一部は国道246号線をオーバーパスしている。元々東横線の列車は現在のように長くなく、沿線の開発の進展と混雑の増加により、徐々に列車も長くなっていった経緯がある。
 話は逸れてしまったが、実際に東横線が地下へと潜った暁には、東急線の幹線(東横、田園都市、目黒の3線)で、いずれも東京都内の起点駅はすべて「中間駅」の一つに過ぎなくなってしまう。どの路線も、東京地下鉄に乗り入れているためで、起点の駅としての「偉容」が失われるのは何とも寂しい限りだ。
 最後まで「起点としてのターミナル」を守り続けた東横線渋谷駅は、頭端式4面4線の高架駅だ。4面4線という構造は文字だけで読み取ると違和感を感じないだろうが、実際に目の当たりにすると1番線を除いてすべて乗車ホームと降車ホームが分けられている。言い換えれば、到着した列車の両脇にホームがあるという構造なのだ。もちろん、列車は到着すると降車ホーム側のドアを開いて降車客を降ろし、それが済むと反対側の乗車ホーム側のドアを開いて乗客を乗せる。こうしたことが、この渋谷駅では日中ほぼ5分おきに行われていて、とにかく人が絶えることがない。
 そして、改札口はちょうど中程にある階段を下りて行ったところにある南口改札と、上り列車の先頭車の先、即ち櫛形の頭端式ホームの「根元」にあたる部分にずらりと並んだ自動改札機のある正面口の2か所ある。
 南口はホームの下にある、比較的こぢんまりとした改札口だが、改札を出たところには渋谷駅南口バスターミナルがあり、そこから都内各方面へ都営バスが発着している。そして、右手には首都高速3号渋谷線と、その下を走る国道246号線「玉川通り」が通り、ひっきりなしに車が往来している。さらに、バスターミナルの外れでは、国道246号線と明治通りの交差点があり、鉄道のみならず自動車交通の大動脈が駅を取り囲んでいるのがわかる。
▲上:正面口改札口にはずらりと並んだ自動改札機があり、そこを絶える間もなく利用客が通り過ぎていく。通勤ラッシュの時間帯ともなると、捌ききれないのではないかと思うほどの人で混雑する。 下:南口改札口の中。正面口と比べると手狭だが、ここもまた人の通りが絶えることがなかった。
 一方、正面口は人の往来が多く、まずもって列車が到着するとほとんどの人が、この正面口改札を利用して駅の外へと向かう(そのために、上り列車は渋谷方の車両に行くほど混雑している)。朝夕のラッシュ時ともなれば、自動改札機が休む間もなく利用客を捌き続けているのであろう。改札の外に出ると、左手には上り階段があり地下鉄銀座線とJRの中央改札へ通じる。右手にはバスターミナルを跨ぐ自由通路があり、その先は宮益坂口へと繋がっている。そして、正面の階段を下りて行くと有名なハチ公口と玉川口に出ることができる。これだけの出入口に繋がっているのであれば、自ずと利用客も多いことが窺える。実際、筆者も高校生の頃から渋谷駅はよく利用しているが、とにかく駅の出入り口は数多く、どこが何口なのやらいまだに覚えられずにいた。今回、渋谷駅を取材するにあたって調べてみて、はじめて分かったくらいだ。
 東横線ホームの上屋はアーチ形状のものが連続してた構造で、長い間風から乗客を守り続けてきたものだ。両端は密閉された構造の壁ではなく、採光と換気を考慮した逆三角形状になっていて、端に隙間が作られたデザインだ。これもまた、今日にはみられないもので、こうした曲線を多用するデザインはまさに昭和時代に流行ったものだ。今日、新たに建設されたり、改築されたりした駅の構造物は、工期やコストなどを考慮しながら一定の強度を保たせるために、どうしても角張ったものになりがちで、とにかく美しさとは無縁で実用本位のものになってしまう。
 ところで渋谷駅は、所謂私鉄の典型的なターミナル駅であるといえる。「典型的な」と書いたのは、起点となる(または終点となる)駅には、自社が経営する、或いは自社の傘下にある大型店舗を併設して、鉄道利用の促進と、鉄道利用による小売り業の収益増加をねらった昭和時代の営業手法が、大手中小問わず私鉄では一般的だったからである。そして、この渋谷駅もまた、東急電鉄傘下の東急百貨店が併設されていて、改札口から直結しているからだ。この東急百貨店も、東横線渋谷駅の地下駅化とともに姿を消す予定であるという。渋谷駅周辺の再開発が進むとともに、この長年に渡って東横線を見守り、そして東横線とともに多くの人々に親しまれた建物もまた、時代の流れの中に姿を消していくことになるのは何とも寂しい話だが、これも仕方がないのかもしれない。跡地には、新たに駅ビルが建設される予定になっており、渋谷の新たな時代を築くことになるだろう。
 東横線渋谷駅が地下化されると、跡地にはこれまで大崎方に寄っていた湘南新宿ラインのホームを大宮方に移設し、これまでの不便を解消することになっている。新たな駅ビルの建設も、東西がほぼ分断された状態を解消するために、自由通路を拡大して人の動線を変えることで、混雑の解消をねらうという。いずれにしても、東横線渋谷駅の地下化は、単に東横線と副都心線の相互直通運転に伴うものではなく、多くの人々で常に混雑している渋谷駅そのものの混雑解消と利便性向上をねらった大がかりな事業であることは確かである。
 高校時代のいわゆる青春まっただ中の頃や、都内の寮住まいの時代など、筆者にとっても多くの時の中でこの渋谷駅を利用してきた。思い返すと、いろいろな場面がこの渋谷駅であった。さらに言えば、筆者の両親も真また、若き頃に渋谷駅をよく利用していたという。こうした思い出を持つ人は、筆者だけではなく多くの人たちがもっていることと思う。しかし、時代の流れとはいえ、当たり前のように見慣れたものが消えていく、これもまた一つの時代が終わることを象徴しているのかもしれない。
▲車止め付近からホームを眺める。列車が到着すれば、ドアが開くとともに多くの乗客がどっと降りて改札に向かい、代わって反対側のホームからは列車に乗る人たちが乗り込んでいくという光景は、ずっと変わることなく続いていた。そして、このホームにいったい何本の列車が発着し、そして何人の人々がここから列車に乗ったり、個々で降りたりしたのだろうか。長い時とともにターミナルとしての重要な役割を担い、多くの人々に親しまれたこの駅も、間もなくその姿を消すことになる。
駅概要
駅名 渋谷(しぶや)駅 駅構造 高架駅
所在地 東京都渋谷区 ホーム構造 4面4線(頭端式4面)
所属事業者 東京急行電鉄 駅種別 旅客駅
所属路線 東横線 開業 1927年8月
キロ程 渋谷起点 0.0km  
乗入他路線 JR東日本 山手線、埼京線、湘南新宿ライン
京王電鉄 井の頭線
東京メトロ 銀座線、半蔵門線、副都心線
東急電鉄 田園都市線
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