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取材日:2011年11月23日
掲載日:2012年8月5日
▲ 改良工事前の小樽駅駅舎。この写真を撮影してから5年ほど後に改良工事が施されることになる。建物の造りは確かに上野駅によく似ている。かつて、北海道における商業の中心地であった小樽の玄関口に相応しくも感じる。この建物は、国の有形文化財にも登録されており、さらには準鉄道記念物にも指定されている。(2005年5月18日撮影)
 北海道の中心の駅といえば、今日では札幌駅ということは誰もが知るところである。国鉄の分割民営化によりJR北海道が発足、それまでは本州と道内各地を結ぶことが鉄道の「使命」とされ、列車の運行体系も青函連絡船が発着する函館駅を中心にしていた。それ故、かつての北海道の特急列車は、一部の例外を除いてすべて函館発。最も長い距離を走る「オホーツク」は、函館から稚内まで走破していたというから驚きだ。それが民営化により、対東京を中心とした体系から、北海道庁の所在地である札幌を中心に、道内各地を結ぶネットワークへと作りかえられた。当然、特急列車の運転体系もそれに倣い、ほとんどが札幌発となっていった。


▲上:小樽駅を訪れた時は残念ながら改修工事の真っ只中で、その美しい駅舎は姿を隠したままだった。 中:駅舎内部の改修工事は終了しており、以前訪れた時に比べて綺麗になっていた。僅かにレイアウトが変わった程度で大きな変化はない。 下:小樽駅の駅本屋の天井。重厚な造りを思わせるのには十分なデザインで、中央部の模様には方位を示すコンパスがあしらわれている。
 北海道に出かけると、必ずといっていいほど立ち寄る場所の一つに小樽があった。小樽駅に隣接した「三角市場」で、北海道の海産物を土産として買うのが「定番コース」となっていたが、そんな旅行も久しくしていない。この市場がなぜ「三角市場」という名が付けられているのか分からないが、とにかくここにさえ行けばカニやイクラ、ウニといったものが手に入るのだから行かない手はなかった。
 その小樽駅は、新千歳空港駅や札幌駅と乗り換えなしで行くことができる。乗り換えがないというのはとても大切で、特に地理に不案内な観光客とって、小樽を訪れたいとしたら、小樽行きの列車に乗れば連れて行ってくれるのだから。「鉄路探訪記」で札沼線を訪れた際に、小樽駅にも足を伸ばしてみたので取り上げてみた。
 小樽駅の開業は1903年である。函館と小樽を結ぶ鉄道を建設した私鉄である、北海道鉄道の手によって開業した。この時の名称は「小樽中央駅」で、文字通り小樽の中央部に位置する駅だった。北海道鉄道が本州に近い函館と道央地域を連絡する鉄道を建設したのは何となく理解できるが、なぜ札幌ではなく小樽なのかを思うかも知れない。北海道に鉄道を建設した当時は、札幌ではなく小樽が中心地として栄えていたのだ。それは、石狩湾に面した港があり、そこから道内や本州各地、さらにはロシアとを結ぶ航路が設定されていたためで、多くの人や物資、そしてお金が行き交っていた。さらに、小樽で日本銀行をはじめ、主要な銀行が支店を置いたために「北のウォール街」という別名もあり、かつてはかなり賑わっていたことを思い起こさせられる。
 小樽から先は、1880年に開業した官営幌内鉄道と連絡していて、こちらは現在の南小樽駅で線路が接続していた。南小樽駅が当時、小樽駅を名乗っていたのはやはり「官営」であったからだろうか。しかし実際には小樽の中心街からは外れた場所にあるがために、そちらを小樽の中心にある駅と思い込んでしまう利用者が後を絶たなかったという。1907年に北海道鉄道が国有化されてから13年後の1920年に駅名を改称。小樽駅は南小樽駅となり、中央小樽駅は小樽駅へとなったという、少々複雑な経歴を持つ駅でもある。

 小樽駅は函館本線の中間駅の一つであるが、この駅で運転系統が分離されている。札幌・旭川方面は交流電化されていて、電車による高頻度運転が行われているし、新千歳空港行きの快速「エアポート」も運転されている。即ち、小樽駅から札幌方は札幌都市圏であり、列車の設定も都市圏輸送を重視した設定になっている。ところが、函館方は通称「山線」と呼ばれる、勾配とカーブの連続する線形の険しい路線で、しかも沿線の人口もそれほど多くないために需要も少ない。そして、非電化であるために気動車による運転で、列車の運転本数も毎時1本程度と極端に少ない。しかも、札幌に直通する区間快速「いしかりライナー」は1日1往復の設定しかないから驚きだ。かつては、急行

▲上:小樽駅は「レトロ感覚」を演出するために様々な工夫が凝らされている。この演出は小樽市の観光イメージに合わせたもので、玄関口の駅として欠かせないものだ。ホームから改札、そして駅舎へと繋ぐ地下道にはガスランプをイメージした照明が、ほのかな光で照らしている。 下:地下道そのものが赤煉瓦造りになって、レトロ感覚を演出している。一方ではバリアフリー対策も充実させていて、このようにオレンジ色の照明の下にはエスカレーターが設置されている。
「ニセコ」などの優等列車も数多く運転されていて、北海道の幹線鉄道としてそれなりに賑わっていたのだが、やはり需要の低さと線形の悪さが相乗して、優等列車や高速貨物列車は、走行距離は伸びてしまうものの比較的線形もよく、高速運転が可能な室蘭本線ルートに流れてしまい、本線を名乗りながらもその実態はローカル線然になってしまっている。
 今では、小樽から函館本線の非電化区間に乗り入れる気動車が、小樽駅構内の留置線に停まっている姿を見ることができるが、これが季節によって車両が違う。夏季はキハ40形なのが、冬季になるとキハ150形に代わってしまう。これは、キハ40形が非力な1エンジン車であるのに対し、キハ150形は同じ1エンジン車でもエンジン出力があるため、線路上の排雪を容易にしながら定時性を確保するための措置だという。
 駅構内は前述の通り、運転系統がここで別れるために広い。留置線が6本もあり、ここには日中も721系電車をはじめとした車両が留置されているのを見ることができる。これだけ広いと車両基地があるのかを思いがちだが、確かに小樽運転所が小樽駅構内に置かれているものの、こちらは乗務員基地であり車両の配置はない。ただ、国鉄時代には小樽築港客貨車区小樽支区が置かれていたこともあり、ほぼすべての列車が小樽駅で折り返し運転を行うために、こうした広い構内をもっているものと思われる。
 ホームは島式2面4線。取り立てて変わったところのないホームだと思いながら歩いていると、何か不自然なことに気づいた。それというのも、1番線と2番線が山側のホームにあるのだが、海側のホームには4番線、5番線と案内されている。そう、3番線が見あたらないのだ。まさか、3番線は地下にあって必要な時に出てきたり、実は秘密になっている別の場所に在るのかと考えもしたが、鉄道の駅でそんな莫迦な話はない。よくよく見ると、ホームの間には中線が1本通っていた。これが「3番線」なのだ。ホームにはないが、しっかりと3番線は存在していて、その番号の付け方は規定に従ったものになっているのだ。 そして5番線は単頭式となっていて、主に快速「エアポート」が発着している。4番線には長万部方面へ向かう気動車列車が発着し、その他の列車は1、2番線という具合で使われている。
 小樽駅というと「レトロ」というイメージが沸いてくるのは筆者だけだろうか。かつての北の中心地であった小樽ということは何度も触れてきたが、駅もまたそうした場所にとてもよく似合った建物になっている。ホームの上屋は見るからに古いものが使われていて、何度もこの駅舎訪問で触れてきた古レールを加工して作った支柱を使っている。こうしたあたりに、鉄道の施設らしさがある。ところが、これまで見てきた古レールを活用した上屋とは、少々造りが違っていた。それ


▲上:小樽駅に到着した721系電車による区間快速「いしかりライナー」。本線を走る車両は現代的な軽量ステンレス車体のものに変わっても、列車の到着を待つホームは変わらずその役を果たしている。 中および下:小樽駅はオホーツク海から吹き付ける極寒の風に晒され、冬季は厳しい気候である。降雪もかなり多いようで、列車から降りた乗客を雪から守るホーム上屋も、積雪に絶えうる構造でなければならない。古レールを活用した構造物は、温暖地で見られるような構造ではなく、トラス構造を多用した強固な造りとしている。しかし、長年こうして厳しい気候に耐え、現在もこうして乗客を守るレールには頭が下がるものだ。
は、積雪が多く冬になれば氷点下まで気温が下がるという、北海道の厳しい気候に対応するためのもので、暖地であれば屋根をV字形にして、支柱もY字形の形状にしてホームの中央部に据え付けることができる。こうすることで、工作と築造の手間が多少なりとも簡略化できるのだが、積雪の多い北海道の地でこの方法で屋根を作ってしまうと、雪は屋根の上に積もりたい放題になり、やがて雪の重量に絶えられなくなり崩壊してしまいかねない。そこで、屋根は逆V字形、即ち山形に作ってある。こうすることで、屋根に積もった雪はその傾斜と重力で、自然に落下してくることで除雪の手間を省いているのだろう。そして、上屋とそこに積もるであろう雪の重さを支える支柱は、逆U字形に組まれた古レールで作られている。さらには、上屋の庇となる部分の直下には、さほど大きくないにせよトラス構造の補強材が組まれているから、やはり積雪によって上屋にかかる荷重は相当なものなのだろう。
 ホームを歩いていてもう一つ気づいたことは、その高さだ。電車対応のホーム高さと、客車対応のホーム高さでは前者の方が高くなる。かつては客車列車主体であったが、電車主体になると大抵はホームの嵩上げがされるのだが、小樽駅のホームはそれがされている様子がなかった。実際、札幌駅から乗ってきた721系電車を見ると、ホームとの高さにかなりの違いがあり、出入り口にはステップがあるとはいえ、やはりかなりの段差があることは否めなかった。さらには、ホームの上面と電車の床面にも差があり、なんと床下に隙間ができているのには驚いた。交通バリアフリー法によって、いろいろな面で設備の改良工事が行われている昨今、この段差もいつかは解消しなければならないだろう。
 ホームから改札に向かう階段を下りていくと、その内壁は重厚な煉瓦造りになっていた。やはり、歴史ある駅には煉瓦造りは似合っていると思うのは筆者だけだろうか、とにかく白く明るく照らす蛍光灯ではなく、オレンジ色の少々薄暗さを感じさせる白熱灯の照明もまた、こうした煉瓦造りの連絡通路に重厚感を演出している。その煉瓦造りの壁面も、曲がり角ではコンクリート造りに見られるような「直角」ではなく、緩やかで優しい曲線を描く構造になっている。こうした一つ一つのこまい所の造りが、また何ともいえぬ雰囲気を作っているのだと思う。
 改札口はすべて自動改札機が導入されているのは残念だが、省力化の現代社会にあっては仕方がないことだが、やはり昔ながらの「ラッチ」があり、そこに駅員が入って鋏を熟練技で動かしながら、次々と来る乗客の切符に鋏を入れていくといった光景が、こうした駅には似合っているかも知れない。この小樽駅でもかつてはこうした光景があったのだろう、自動改札機が並ぶ改札口のあるホールは広く、そして天井が高く開放感がある。今回訪れた時は、小樽駅の駅舎は改良工事の真っ只中ではあったが、高い天井にステンドグラスのある駅舎は、その照明も手伝ってレトロ感を演出するには十分なものだった。

▲上:小樽駅のホームに面した駅舎への入口。ご覧の通り木造のものが現在も使われている。レトロ感覚を演出するためのものではなく、古いものがそのまま活用されているようだ。 下:小樽駅のホームから函館方を望む。ここから先は「山線」と呼ばれる非電化区間で、ここからオホーツク海の海岸沿いに余市、ニセコ、倶知安などを経由して長万部へと続く。しかし本線ではあるものの線形は悪く、沿線の人口も少ないために列車の運転本数は多くない。雪の中に延びる線路が、その先の静かさと寂しさを物語るようだ。
 駅を出てふりかえると、小樽駅の駅舎は残念なことに改良工事のための囲いがされていて、駅全体を見ることはできなかった。それでも覗き見える壁はベージュ色に塗られていて、僅かにその姿を見せていた。現在の小樽駅の駅舎は3代目で、19XX年に改築された建物だが、そのモチーフは上野駅だという。確かに、言われてみると上野駅にそっくりだ。何度となく訪れていたものの、そのことにまったく気づかなかったというか、小樽の街の雰囲気に似合っているとしか認識していなかったのだ。そして、駅の正面玄関からまっすぐ延びる道路は、ちょうど緩やかな下り坂になっていて、その先には小樽港と海を望むことができる。小樽の街を支えてきた象徴ともいる港は、駅からそう遠くない場所にあるのだ。
 そして、右手には北海道中央バスのバスターミナルがあり、小樽市内各所を結ぶ路線バスはもちろん、鉄道のライバルとなる札幌や新千歳空港を結ぶ高速バスも頻繁に発着している。路面には積もった雪が溶けてシャーベット状になっていたが、そんなことを気にすることもなく多くの人が道路を渡り、そしてバスが通り過ぎていった。
 かつては海運で栄え、海の玄関口であった小樽の街。そして北海道の中心地である小樽と、道内を結ぶ鉄道の結節点であった小樽駅。現在はその中心的な役割は札幌駅に譲り、いまでは観光地の駅として、多くの観光客が乗降しているし、駅自体も観光地としての役割をもたせている。その一つが、小樽にゆかりのある俳優であった故石原裕次郎氏にちなんで、「裕次郎ホーム」と名付けられた4番線であろう。しかし、一方では北海道内で数少ない電化区間の駅であり、電車による高頻度運転を実現し、札幌都市圏輸送の一翼を担う駅でもあり、小樽市内から札幌方面へ向かう通勤通学輸送という面も忘れてはならない。厳しい北海道の気候に耐えながら、今日も日常生活の一部として小樽駅を利用する人と、観光で小樽を訪れて駅に降り立つ人を、長い歴史を刻み続ける小樽駅は静かに見守っているだろう。
▲▲降りしきる雪のおかげで、ホームは白に染まっていた。上屋から吊り下げられている時計は、恐らく国鉄時代からのものであろう。今ではあまり見ることの少なくなった、丸形の透過照明電気時計だ。列車のいない冬の小樽駅は静寂に包まれていたが、ひとたび列車が到着すれれば、降車する利用者で賑わい出す。しかしそれもほんの一瞬のことで、それが終わればまたもとの静寂に戻る。そんな光景を、この時計は何十年と見守ってきたのだろう。そして、列車の到着を待つ乗客に、時を教え続けてきたのだろう。降りしきる雪の中、厳しい気候に耐え続けている上屋とともに、小樽駅を見守り続けている。
駅概要
駅名 小樽(おたる))駅 駅構造 地上駅
所在地 北海道小樽市 ホーム構造 2面4線
所属事業者 北海道旅客鉄道 駅種別 旅客駅
所属路線 函館本線 開業 1903年
キロ程 函館起点 252.5km その他 駅員終日配置駅
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